陸稲と水稲、熱帯ジャポニカと温帯ジャポニカ2010/07/17 18:45

 稲作に関しては、とても興味深い事が多いのですが、理解できていない事が多いのも事実です。
 『稲作の起源』(池橋 宏)においても、得る所が多くあったとは思うのですが、中途半端な理解により、どうまとめて良いのか分かっていないというのが正直なところです。

 そんな折、7日の記事に対して、A.Shioさんからコメントをいただきました。ありがとうございます。
 私が誤った理解をしているという、ご指摘に対して、直ぐにその意味を理解することが出来ませんでした。(←理解が浅い証拠ですね。)

 A.Shioさんのおっしゃるように、『日本人ルーツの謎を解く』(長浜浩明)を読み返し、ようやく理解できました。
 確かに、私の誤解、無理解と、説明不足があったようです。
 しかし、”熱帯ジャポニカが温帯ジャポニカに化けた”という認識はありませんでした。ただ、私が書いた事をよくよく読み返して見ると、そのように見えるのは確かです。

 さて、簡単に説明するのが難しそうなのですが、出来るだけ簡潔に書いてみたいと思います。

【陸稲から水稲への変化】
 まず、野生イネがどのような経緯で、栽培化されたのか、という問題です。とりあえず、イネの品種については置いておきます。(無関係ではないのですが)

 「照葉樹林農耕論」というものがあるそうで、それによると、焼畑による点播から始まり、それが水田稲作へと発展していくという考え方で、まず池橋氏は、このイネの栽培方法の展開に疑問を呈しています。
 大雑把に言うと、稲作畑が降雨などにより水が溜まり、水田のようになったことをきっかけに、水田稲作が発展していくという照葉樹林農耕論は、有り得ないということです。
 この展開だと、陸稲として栽培されていたイネが、水稲として栽培されるようになったと捉えることができます。

 池橋氏は、沼地に生息する野生イネを「株分け」によって、増やすことで栽培化が進んでいったという考えを持っており、イネの性質として考えた場合、野生イネ→水稲→陸稲への変化は有り得ても、その逆は無いということなのです。

【熱帯ジャポニカと温帯ジャポニカ】 
 『日本人ルーツの謎を解く』(長浜浩明)では、
   熱帯ジャポニカ = 陸稲
   温帯ジャポニカ = 水稲
 という前提で書かれているので、「熱帯ジャポニカが温帯ジャポニカに化けた」となる訳ですね。確かに、そう言われても仕方がありません。

 そもそもの私の間違いは、「野生イネが栽培化されるまでの話」と、「日本で栽培されてきたイネの品種」という、別々に考えなければならない事を、混同して考えてしまったことにあるようです。
 しかし、長浜氏の考えでは、水田稲作がどのようにして開発されたのかが分かりません。
 また、熱帯ジャポニカと温帯ジャポニカが、平行栽培されていたということですが、最初は”温帯ジャポニカも畑作をしていた”ということなのでしょうか?
 ”水稲を畑作していた”という事になりそうなのですが、そんな事が可能なのでしょうか?

【水田稲作の要素とは?】
 また、どうしても引っかかるのが、「縄文時代の人たちが何千年も栽培してきた陸稲に、水田稲作の要素を少しずつ加えていったからこそ、・・・」というところです。
 陸稲を水田稲作のように栽培したのでしょうか?
 水田稲作の要素を少しずつ加える、とはあまりにも漠然としていないでしょうか。

 池橋氏による「株分け」による栽培化の過程では、沼地による野生イネが、畑作を経由せずに、直接水田稲作へと発展していく考え方で、理解できるところは多くあると思っています。
 それに対して、”水田稲作の要素を少しずつ加える”では、漠然としていて議論のしようがありません。

【どちらに肩入れするつもりもない】
 さて、長浜氏を否定するような話になってしまいましたが、全てを否定している訳ではありません。
 逆に、池橋氏においては、どちらかというと大量の渡来人を想定しており、その点では私自身、受け入れ難いものがあります。
 渡来人という存在については、両極端な考えを持つ両氏ですが、片や「渡来人は来ていないという前提」、片や「渡来人が稲作を持ち込んだという前提」という、ある前提条件にさまざまな情報と結び付けているという姿勢では、共通するところがあるのかもしれません。
 当然、両氏とも、前提にそぐわない情報は意図してか否か、排除しているようにも見受けられます。(当然といえば当然ですが・・。)

 私自身、長浜氏から受けた最も重要な事は、「結論を鵜呑みにしてはいけない」ということでしょう。
 ある人のとある結論とは、さまざまな情報と、その人の考えの融合であって、何らかの検証が必要です。
 不十分ではありましたが、長浜氏の結論に対する検証の結果と言えなくもありません。