日本語 文字を獲得するまでの1万年② クレオールタミル語説(17)最終回/総括2008/10/18 19:50

クレオールタミル語説についての考察が、思いのほか長くなってしまいましたが、ここで一区切りをつけたいと思います。

『考古学・人類学・言語学との対話 日本人はどこからきたのか』の中では、各方面の専門家から支持を得られたとはいえない結果でした。
また『縄文語の発見』の中で、著者の小泉 保氏は、規則的な音声の対応がなされていないことなどを指摘しています。

当初よりタミル語説を、受け入れる姿勢はなかったので、その点については変わらないのですが、色々な角度から考察を重ねるうちに、私自身のタミル語説に対する考えがだいぶ変わってきました。
9月22日の『日本語 文字を獲得するまでの1万年①』(記念すべき第一回!!)では、次のように書込みしています。

「タミル語起源説は、支持しないのですが、その研究姿勢は、無視できるものではありません。
考古学的な比較も行うなど、言語に限らず幅広く研究しているその姿勢は、尊敬に値すると思っているのですが、タミル語と日本語を結びつける為に、少々強引な説を導き出している感があるのが、とても残念です。 」

これは、訂正しないといけないようです。

1.「その研究姿勢は、無視できるものでは・・・」
”ある一定の評価する”という意味で”無視できない”、ということだったのですが、評価できるのは内容が伴わない部分といえるでしょう。それでは”評価”とは言わない気もしますが、「探究心」「研究熱心」等々、そういった姿勢は評価できると思います。

2.「考古学的な比較も行うなど、言語に限らず幅広く研究・・・」
言語としての関連性を強調、補強するがために、考古学的な資料を持ち出しているのであって、それが言語の関連性を高める根拠として十分な内容かどうかは疑問が残ります。

最後の「タミル語と日本語を結びつける為に・・・」と、内心、分かってはいたのです。
分かってはいたのですが、何か、どこか正しいものがある、と思わせるところがあったのでしょう。

確かに”惹きこまれる”要素はあると思います。
文章の展開のし方など、大野氏の魅力といえる点もあると思います。
現に、タミル語説を強く信じている人が少なからずいるようですし、この説自体を否定する決定的な証拠というものがある訳でもないのでしょう。
しかし、逆に強引と感じられる向きもあり、そこが反感の元となることもあるようです。

結果的に、タミル語説全般を否定する形になってしまいましたが、大野氏を非難する気になれないのが不思議なところです。
今は、ごく一部の人達にしか支持されていないようですが、もしも新たな証拠がでてくるようなことがあれば、陽の目を見ることがあるかもしれません。このような説があるということだけは、頭の片隅に置いていても良いのではないでしょうか。

(おまけ)
タミル語説に熱心な人は、他にもいるようで『ドラビダ語語源辞典』の日本語版が出版されています。
大野氏は、英語版で研究されたようですが、これは度・英・和対訳版なので英語が苦手な人でも研究ができます。
まるで、宣伝しているかのようですが、単なる好奇心です。
ちなみに、お値段は¥78,750(税込み)です。
また、横浜市立図書館に蔵書としてあるようです。
機会があったら、少し眺めてみたい気もします。

日本語 文字を獲得するまでの1万年② クレオールタミル語説(16)/『日本語の起源』を振り返って⑥2008/10/17 16:26

5)墓と墓地

手元に参考になる文献がなかったので、ウィキペディアを参考にしてみました。

支石墓の発祥については、西ヨーロッパと考えられているようで、そこから世界各地へ伝播したのではなく、各地域で個別に発祥したとする見方が有力なようです。
支石墓が似ているからといって、南インドと日本(北九州)を関連付ける根拠にはなりそうもありません。

東アジアでは朝鮮半島に多くの支石墓が発見されており、その数は4万~6万基とされているようです。
その数は、世界の支石墓の半数に相当するとのことで、日本の支石墓は、朝鮮半島が発祥の地と考えたくなります。


6)グラフィティと記号文

まず、よくこれだけ調べたものだと関心します。
それ程、差が無いように見える記号を整理、分類している労力は、考えただけでも気が遠くなります。

しかし、私には全く説得力を感じません。
土器など形があるものに描かれたものが、残っていないだけで、遥か昔から描いていたように思います。
この程度の記号であれば、それこそ人類がまだアフリカを旅立つ10万年前から、描くことができたのではないでしょうか。
インド人の祖先と、日本人の祖先が共通であった数万年前(5万年?)を、起源としていると考える方が自然に感じます。


7)金属の使用
8)機織のはじまり

金属(青銅器)にしても、機織にしても、インドだけが発祥の地という訳ではありません。
南インドから伝わったと考えるには、根拠が乏しいと感じます。

日本語 文字を獲得するまでの1万年② クレオールタミル語説(15)/『日本語の起源』を振り返って⑤2008/10/16 21:41

4)稲作の始まり

稲作は南インドから北九州に伝えられた、という説です。
その証拠として、稲作に関係する単語の対応が、日本語とタミル語の間にある、ということです。

対応語の表を眺めると、確かに似ている単語があります。
しかし、単語の対応について真意を問う気にはなれません。

今まで分かっている考古学的な証拠と比べれば、稲作に関する単語の対応は”弱い”というのが、私の印象です。

単語の対応の真意を問うまでもなく、それを理由に、南インドから稲作が伝わったという考えは、納得がいきません。