『知らなかった!日本語の歴史』(浅川 哲也:東京書籍)2011/09/30 16:32

 ずいぶん前に読み終え、ここに書きたいことも考えていたのですが、ちょっと時間が経ちすぎてしまいました。
 全体としては、易しくとても読みやすく、私のように日本語の歴史に詳しくない人間に分かりやすい書かれています。
 また、書かれている内容が幅広いので、”なるほど”と思わせるところが多くあります。

 さて、そんな中でも、やはり一番の注目は”上代特殊仮名遣い”に関してです。
 「上代特殊仮名遣いの正体」というサブタイトルで、6ページと少しにわたって書かれている内容を簡単に紹介します。
 まず、三つの説を簡単に紹介しています。

(1)母音を相違とする説
 橋本進吉氏による、八母音説です。(発音の違いはあれど、大野晋氏も同様に八母音説です。)
 イ段・エ段・オ段の別は、それぞれ母音の違いによるもの、という考え方です。

(2)母音の相違・子音の相違
 服部四郎氏による、六母音説です。
 イ段・エ段の別は、子音の違いにより、オ段の別は母音の違いによるもの、という考え方です。

(3)子音の相違とする説
 松本克己氏による、五母音説です。
 イ段・エ段の別は、子音の違いにより、オ段の別は、唇を丸めて発音するか、平たくして発音するかの違いであって、一つの母音でしかない、という考え方です。

 これらを踏まえた上で、この本の著者である浅川氏の考えはどうなのでしょう?
 理由については省略しますが、次のようになります。

 イ段・エ段の別は、子音の相違。
 オ段の別は、母音の相違。
 明記していませんが、六母音説といって良いのでしょう。
 ただし、服部四郎氏の説とまったく同じという訳ではなく、母音の相違の原因について”不明”としています。

 さて、このブログでも何度か登場している『白村江敗戦と上代特殊仮名遣い』の著者である藤井氏の説には、まったく触れられていません。
 やはり日本語学の専門家の方々の眼中には無いのでしょうか?
 それとも、否定も肯定もできずに、見ないフリをしているのでしょうか?
 否定するならするで、真っ向から否定する日本語学(国語学)の専門家にお目にかかりたいものです。
 この様に書くと、まるで藤井氏を擁護しているように聞こえるかもしれませんが、少し違います。
 真実に迫るには必要なことだと思っているのです。

 個人的には、未だ藤井氏の説が有力か、といった印象です。

『日本語音声学入門【改訂版】』-斉藤純男:三省堂2011/08/31 20:53

 少し前になりますが、読んでみました。
 これ一冊で”音声学”の何が分かるのか、と思われるでしょうが、確かによく分かりませんね。
 もっとも、そんなに簡単なことでないということくらいは分かっていたので、その通りになったという感じです。

 さて、内容の方は、本書の冒頭にもあるように基礎的なところに重点を置いています。その為、後半の6章あたりから、とても早足になり、あっという間に一つの章が終わります。
 そんなに長々と書くような内容ではないのかもしれませんが、章を設けている割にあっけないので、分かったような分からないような、ぼんやりした印象です。

 全般的に感じたのは、やはり目で見るだけでは分からない、ということです。
 何度か、CDか何かがあって、音声を耳で聞くことができたら、もう少し分かりやすいのに、と思いました。

 批判的なことばかり言っているように聞こえるかもしれませんが、決してそういうつもりではありません。私のような人間には、内容を吸収しきれない、理解しきれない、ということです。

 ただ、音声学の概念は、何となく分かったような気がします。

 また、日本語に限らず、言語の歴史や他言語との共通性などを考察するには、音声学は避けては通れないように思えました。
 これまで、私が見てきたものには、やはり文字の上だけで言語の比較を行うようなものが少なからずあり、そういったものが、どれ程の意味があるのだろうかと、疑問になります。

 本書の内容の半分も理解できてはいませんが、そういったことが解っただけでも十分に読んだ価値があったといえるでしょう。
 また、本書は今後、音声学的な内容でわからない事があった際に、きっと役立ってくれるに違いありません。

『白村江敗戦と上代特殊仮名遣い』④-「条件異音」の理解が不可欠2011/07/06 17:31

 まず、著者の藤井游惟氏より、YouTubeによるデモビデオの紹介がありました。
 ご興味のある方は、下のリンクをどうぞ。
「白村江敗戦と上代特殊仮名遣い」のデモビデオ
(このブログの右側のツールバーにも貼り付けることができたので、そちらからも見ることができます。但し、少々画面が小さいので、全画面に切り替えて見て下さい。)

 ただ、個人的にはこのデモビデオで、どれだけの方が理解、納得をするのかは疑問ですが、多くの方が何かを感じ取る事ができるものであると思っています。

 私個人としては、この説を概ね信じております。
 ここであえて”概ね”としたのは、私自身、この説の詳細まで理解できていないと思っているので、何か些細な問題点があったとしても、それに気づくことも指摘することも出来ないからです。
 この説を検証できる適当な文献があれば良いのですが、私の目にはとまっていません。
 音声学について、深く理解をすれば、それ相応の検証ができるようにも思えますが、今はそこまでする気がありません。

 話が脱線しました。
 このデモビデオだけでは、本当の理解には至らないと思います。「条件異音」についての理解がなければ、ただ何となくそれらしく聴こえるだけで、「ふーん、それで?」と、終わってしまうかもしれません。
 ただ、これをきっかけに興味をもってもらえれば、という藤井氏の意向に沿う訳ではありませんが、筋違いの反論はあるものの、音声学に基づくまっとうな反論が見当たらないので、それを聞いてみたい、その為に多くの人に見てもらいたい、というのが私の意向です。

 しかし、それ以前に私自身が、もう少し音声学について学ぶ必要がありますね。でも、結構いろいろな本が出ているようで、どこから手を付けるの良いのか悩みどころです。