『方言の日本地図』-神仏の呼び方2009/05/11 22:06

ブログパーツの「本棚」で、紹介していた『方言の日本地図』(真田信治:講談社+α新書)を、何日も前に読み終えていたのですが、取り上げるきっかけを失っていました。

読み物としては、なかなか面白かったのですが、方言の分布を表す地図の範囲が、比較的狭い範囲で取り上げている例が多く感じました。
ある言葉についての、全国的な方言の違いを知りたい場合には、この本はあまり向いていないようです。
もちろん、この本の趣旨が異なるからであって、内容の優劣の問題ではありません。

印象に残ったいくつかの話の中から、身近に感じた事を一つ、紹介しておいきます。
タイトルにあるように、神仏の呼び方なのですが、大人が使う呼び方ではなく、「幼児語」を言われる、幼児が使う呼び方のことです。

「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」に由来するようで、次のように変化したと推測しています。

「ナンマンダブツ」
「ナンナンサマ」
「ノンノンサマ」
「ノーノーサマ」
「ノノサマ」
「ノノサン」

そこで、気になるのが、最後から二番目の「ノノサマ」です。
実は、お寺が運営する幼稚園に通う娘が、「ノノサマ」と教わってきているのです。
今まで、その言葉の由来について深く考えたことがなかったので、分からなかったのですが、これですっきりしました。

ちなみに、この本の中では岡山県付近に焦点を当てた分布図を掲載していますが、娘が通う幼稚園は、神奈川県にあります。
全国的な分布が、気になるところです。

日本語 文字を獲得するまでの1万年③ 方言に見る日本語の歴史(1)/トンボの原型①2008/10/24 18:47

[蜻蛉(アキヅ)の語源を各地の方言から推定]
トンボの古語は「蜻蛉」(アキヅ)といいます。
「秋津」(アキツ)などとも言うようですが、『日本書紀』にも出てくるので、ここでは「蜻蛉」とします。

トンボの方言分布を見ると、

・アケズ(東北岩手)
・トンボ(本州中央部)
・アケズ(九州宮崎)
・アケージュー(沖縄本島)

というように、「トンボ」が新しい名称で、「アケズ」が古形であるということが、方言周圏論に一致する考え方です。
以前(9/25)、『「顔」の事、「カオ」「ツラ」「チラ」・・・なんと呼ぶ?』というタイトルで、書込みをした内容と考え方は同じです。

そこで「アケズ」の変異形を地域別にまとめ、各地域の再構形をさらに広範囲の地域へと統括しながら、最終的な推定原形を導き出す、というのが『縄文語の発見』の著者、小泉 保氏の考えです。
『縄文語の発見』では、(1)東北系、(2)関東系、(3)九州系、(4)奄美大島系、(5)琉球系、と分類し、それぞれの方言から*印をつけた想定形を導き出し、
(1)東北と(2)関東を、統括して(東日本)へ、
(3)九州と、古語を統括して(西日本)へ、
(4)奄美大島と、(5)琉球を統括して(琉球)へと導き、
最後に、この三つを統括して(原日本語)「アゲヅ」(ゲは半有声、ヅは軽い鼻音を伴うヅ)を、再構しています。

この再構の流れは、発音の説明を伴いながら、約13ページにわたって説明されています。
地域別にバラバラになっていた再構の流れを、全てつなげて1枚の図にまとめたのが添付した画像ファイルです。
この図は、『縄文語の発見』の内容を、できるだけ忠実に図式化してます。
全体を眺めていると、いろいろと疑問が沸いてきそうですが、それはまた次回に。

『方言が明かす日本語の歴史』①2008/10/05 18:17

おもしろそうな本を見つけました。
『方言が明かす日本語の歴史』 小林 隆著 岩波書店、です。

なぜ、方言なのか?
『枕草子』や『源氏物語』などは、京のみやこの言葉であり、しかも「はなし言葉」ではなく、「書き言葉」である為、日本語の一部を教えてくれるに過ぎない、それだけでは不足だということです。
そこで、日本全国の方言を比較する方法を採る、ということです。

前に、少しだけ紹介した『縄文語の発見 小泉 保著』と、似ているところがありそうです。柳田国男の『蝸牛考』の中で唱えた「方言周圏論」を、用いるところは共通しています。

一部、簡単に紹介します。
古典語文法での命令形は、
 見よ、起きよ、開けよ
という形のところ、現代語では、
 見ろ、起きろ、開けろ
と、「-よ」系から、「-ろ」系に変化している、と。

日本語の標準的な文法が、「-よ」系から「-ろ」系へ変化したという点では間違っていないが、「-ろ」系の表現は、『万葉集』の東歌にも現れるように、当時から東日本では、「-ろ」系が使われていたということです。
文法の変化というだけでなく、地域の違いも含まれているということで、「-ろ」系は、決して新しい文法ではない、ということです。

この地域の違いが方言であり、その方言を比較して見ると・・・、いろいろと見えてくるようですが、それはこれから読みます。

古典語などには、まったく無知な私でも、わかりやすく書かれています。
読み進むうちに、面白いところを見つけたら、また紹介しようと思っています。(すでにタイトルには①の文字が・・・。)